村上春樹の『スプートニクの恋人』を読み始めた。
昔から村上春樹は結構好きだ。それなりに好き。月に一度は立ち寄る好みの音楽が流れている喫茶店くらいには好き。ファンというほどではないけど、年に1~3冊ほどは読んでいる気がする。話の筋が好きと言うわけではないけど、文体とか、書き方とか、比喩とか、文章にところどころ顔を出す独特の感慨とか、雰囲気とか。
それで、昔一度は読んだことある『スプートニクの恋人』を手に取って再読しはじめたのだが(ふと昔旅行に行った時のついでにいった町が素敵だったので、なんとなく足を運んでみるみたいに)、冒頭のすみれの恋に落ちたことの形容に、一気に引き込まれ、魅了され、どんな話がはじまるだろうと(最初に読んだのが10年前だったのでほとんど忘れていた。覚えていたのは主人公が切符をよくなくすようなロマンチストということくらいだ)わくわくしながら、読む心のなかに、小説に書かれているような竜巻が、ささやかにでも発生し、(止まらない風の中で方向感覚さえ失った蝶のように)俄然虜になった。
そのとき…
テクノロジー犯罪加害者が私を遠隔操作した。まるで嬉しいことがあった日の元気な少女がベッドでキャッッキャしてるかのように、顔に手を当てさせられ、脚をバタバタさせられ、ベッドの上を転がされ、うきうきした気持ちを増幅させられ、うぅーー! と言わされ、口の皮膚が千切れそうなくらい満面のニコニコ顔をさせられた。
テクノロジー犯罪加害者は、思考盗聴、いや正確に言うと感覚や感情まで精細に盗聴しているが、とにかく私の心の動きを体験して、それでウキウキ感が写り、このような遠隔操作をしてきたのか? 気まぐれに、AIが非常に嬉しがるような動作をさせるよう、スイッチを入れたのか? それはわからないが、とにかく私は少女が狂喜したかのように嬉しい気持ちを全身で表現することを強制された。
それはそうと、スプートニクというのは、ロシアが人類発の衛星打ち上げを行ったスプートニク計画において、「付随するもの」という意味のスプートニクが名前として用いられ、転じて衛星の意味になった言葉だ。テクノロジー犯罪の加害装置が一体どのようなものであるのかは不明だが、自室だけでなく、通勤の電車、バスでの移動、ビルの20階の職場、遠方への旅行での新幹線、登山しているときの山の全ての場所、海を船で渡る時のはるか沖のほう、スカイツリーの展望台、飛行機内、パリのエッフェル塔、ロンドンの市街地や繁華街のあらゆる場所、富士山の山頂、とにかく全ての場所で被害を受けるということを考えると、人工衛星が加害装置として候補に挙がる。
人工衛星からやられているとしたら…地球上逃げ場がないな。
とにかく逃れようのない被害というのは、蜘蛛の巣に捉えられた蝶のように、つねに意識が何者かに捉えられてしまっているが、たまに『スプートニクの恋人』の冒頭のように、それをわすれるほどの竜巻が起こり、私の意識を自由な活動へと攫ってくれるから、読書はとても精神衛生上いい。
被害を受けていることを数時間もわすれさせてくれた『スプートニクの恋人』。村上春樹の文章というのは、独特の抵抗のない連想のとめどない連続、不可思議なくらいの流麗さがあり、意識に淀みない流れを作ってくれ、その流れが小説の世界だけを流れるようで、色々な悩みを含んだ時間を意識させなくしてくれる。
今年は色々な小説を読み、少しでも被害を忘れていよう。
ラクガキ (※不気味・Sensitive/Nudity・グロ注意)
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